ムービングとの出会い……
by 藤田康夫
初めてみたムービングライトVL1
いつ頃だったんだろう。
初めてムービングライトを見た時……20代半ばだったと思います。
確か香港ファッションショーが日本で行われる、そのショーで使われている器材が凄い!という事で何人かで仕込みを見に行った記憶が有ります。ホテルの宴会場だったと思います。
頭上のスポットからの光が動いた!
色が変わった!
ネタ(GOBO)が入った!
それは衝撃的でした。それまで色が変わってGOBOも変わり前後左右に動く器材なんて見たことも無かったし存在すら知らなかった......興奮すると言うより多分口をあんぐり開けて頭上を見ていたと思います。
それがVARI LITEのVL1でした。
時間制御は出来ないので動き、色、GOBOの変化は一定。次のポジションへ行くのに、遠い位置の器材は遅れてやってくる。フェードインも一定なので良きキッカケでボタンを押すことで調整する、そんな具合。
卓は今の様にインテリジェントではなかったのですが、プリセットフォーカスなど似た様な機能は既に持ち合わせていました。しかし、エフェクト機能の様な概念は無かったので、例えばビームで円を描くように動かすには
- 1点目2点目3点目4点目のポジションを決めて
- 器材が1点目に到達する
- その直前に次のキューを送ると、そこから2点目に向かう
- 2点目に到達する直前に次のキューで3点目に向かわせる
- 3点目に到達する直前に4点目に向かわせる......
と動かすことで円に近づけていくなんてやり方。
カラーもターレットに10枚程度色が入っているのが2枚程度でした。
それでも凄かった!!!!
その後VL2、VL3なんて器材が出てきて、それらはタイムで制御出来る現在の方法。
VL2とVL3が画期的だったのはキューのポジションやその他カラー、GOBOは「機材側が記憶する制御方式」だったこと。また器材側の状況も卓に伝える「双方向通信」でした。
卓の再生プレイバックでは、キュー番号を指示すると、各ムービングライトはそのキューにあった自分が覚えているポジションに向かって色、GOBOを変えて動くといった具合。
これからはスポットがインテリジェントになって行くのか?そんな気がした瞬間でしたが、実際にはそうはなりませんでした......
おまけの考察
ムービングライト黎明期には機材自体が記憶する制御方式で卓との双方向通信だったものが、なぜ一般的にならなかったか......?
DMX512という存在が大きく関わっていたと考えています。
まず、DMX512を使用して多くのメーカーが自社の特色を出した製品が出てきた事。
そして、DMXにより専用プロトコルでしか動かないクローズなシステムから、ユーザーはそれらを自分達で操作出来るようになった事。
これにより、DMX512を使用する機材とそのユーザーが増加しました。
そして、そのDMX512が一方通行の規格だった事。
DMX512が双方向だったらまた違った世界になったかもしれません。もしも双方向がメジャーになっていたら、RDMなどで機器のアドレスや機材情報などが分かりそれらの設定変更など出来る規格が現れたのかも......。
また、コンピューターの処理能力が上がってきた事も大きく関わっているかと思います。制御卓がエフェクトエンジンなる物を備えて使いやすくなっていった事なども一つの要因ではないかと推測しています。
これらは私個人の見解なので何とも言えませんが。
VL2とVL4
by: CC BY-SA 4.0, Link
VL2が初めてお目見えしたジェネシスの武道館でコンサートを手伝いに行かせてもらいましたが要領が全く分からず右往左往するばかり......そんな記憶が有ります。
その頃ヘッドが動くヨーク(光を出す灯具を支える両腕)型はほぼほぼ販売されることなく専門の会社が仕込み、プログラム、本番を行っていました。
市販されるムービングライトはClayPakyの代表作でもあるゴールデンスキャンやMartin社のRoboscanの様なミラータイプが多くを占めていました。
by: Audio Funzineより
ミラータイプはミラー可動域が限定されてしまい、仕込み位置、ミラーヘッドの向きなどを検討する必要が有ります。
横長で仕込むか、縦長で仕込むか、ミラーヘッドは上か下か......
縦で吊ると前後のバトンが使用出来なくなる可能性があったり、横長で仕込むと他の器材が仕込めなくなるのでムービングは別バトンにしたり、結構大変でした。
その為、今では360°方向に向けられるヨークタイプのムービングヘッドが一般的になっています。逆にミラータイプを探す方が大変になっている感じですかね。
DMXとムービングライト
実際に現在の様にムービングライトが一般的に広まった裏にはDMX512が照明制御の標準規格が出来たことが挙げられると思います。
DMXは1990年に発表されました。その時のDMXが一般にまで広まるのには5年~10年程かかっていると思います。
しかしながら欧米のメーカーはDMXが制定される前からムービングの製作に取り掛かっていました。
それまでムービングライトは専用プロトコルでしか動かないクローズなシステムでした。当然一般ユーザーは使えません。高額な金額を出してレンタルするしかなかったのです。
そしてDMXで動作するムービングライト機材が、DMXの発表と共に発表されていきました。
問題だったのは、今で言う相性問題でした。
当然ながらコントローラーもDMXに対応していなければなりません。
当時DMX規格はかなり大雑把な規格だったので、コントローラーはDMXを送出しているのに動かない、動作はするが動きがブレている。ピクつくなどトラブルも発生していました。
ユーザーは1台のコントローラーで何種類かのムービングライトやカラーチェンジャーを使おうとします。同じDMXを使うのですから当然の考えです。ただコントローラーから送出するDMXと、受ける側の複数の種類の器材には相性問題があったのです。
このムービングはOK、このカラーチェンジャーはNG、ということが起きたわけです。
そうなると複数の機材を上手く動作させるには
- 一緒に使わない
- 複数のコントローラーを使う
- コントローラーと器材の間にDMXのパケットを調整するインターフェイスを入れる
などの検証が当時は必要でした。
そしてLED機材へ
その後ヨーク型が多く使われるようになってきたのはMartin社のMac500辺りからではないでしょうか。
Mac500はProfile系のムービングに
by: Martin Mac 500
Mac600はWashLight系のムービングになります。
by: Martin Mac 600
Martin社はその後アニメーションホイールなども開発しました。
DMXの規格も改訂されDMX512-Aとなり、その後2010年頃にMac 101WashというLEDムービングライトが発表されました。
この機材では、RGBの素子がそのまま使われていました。多分現在のムービングWashの原型になったのではないでしょうか?
そして、翌年?辺りでしょうかRobe LightingからRobin 600という3 in 1タイプの素子が使われた機材も出てきました。
by: Robin 600
Robe社はそれまでそれほど目立った存在では有りませんでしたが、この辺りの時期からどんどん機材の種類が増えてきました。
ムービングライトは素子の開発も進みどんどん性能が上がってきました。Wash系から始まったLED化でしたが、Profile系ムービングライトにもRGBのLEDを使用した機材が出てきました。
Robe社やGLP社など数社がLED機材を次々に発表していた時期です。
更にLEDの開発は進み、白色LEDはより光量を増すことにより従来の放電管タイプの様にCMYカラーを搭載出来るようになってきました。
今やWash系ムービングライトはRGBのプロファイル系の大半は白色LEDになってきています。
ホワイトLEDのパワーアップもどんどん進み今や1200W、1400Wなんて当たり前になってきました。LEDは省エネなんて言う話は何処に行ったのだろうって感じです。
こうして、各社ムービングに様々なエフェクト機能を盛り込んでいき、今日みられるオールインワンタイプになるようなムービングを作り上げていったのです。
いつ頃だったんだろう。
初めてムービングライトを見た時……20代半ばだったと思います。
確か香港ファッションショーが日本で行われる、そのショーで使われている器材が凄い!という事で何人かで仕込みを見に行った記憶が有ります。ホテルの宴会場だったと思います。
頭上のスポットからの光が動いた!
色が変わった!
ネタ(GOBO)が入った!
それは衝撃的でした。それまで色が変わってGOBOも変わり前後左右に動く器材なんて見たことも無かったし存在すら知らなかった......興奮すると言うより多分口をあんぐり開けて頭上を見ていたと思います。
それがVARI LITEのVL1でした。
時間制御は出来ないので動き、色、GOBOの変化は一定。次のポジションへ行くのに、遠い位置の器材は遅れてやってくる。フェードインも一定なので良きキッカケでボタンを押すことで調整する、そんな具合。
卓は今の様にインテリジェントではなかったのですが、プリセットフォーカスなど似た様な機能は既に持ち合わせていました。しかし、エフェクト機能の様な概念は無かったので、例えばビームで円を描くように動かすには
- 1点目2点目3点目4点目のポジションを決めて
- 器材が1点目に到達する
- その直前に次のキューを送ると、そこから2点目に向かう
- 2点目に到達する直前に次のキューで3点目に向かわせる
- 3点目に到達する直前に4点目に向かわせる......
と動かすことで円に近づけていくなんてやり方。
カラーもターレットに10枚程度色が入っているのが2枚程度でした。
それでも凄かった!!!!
その後VL2、VL3なんて器材が出てきて、それらはタイムで制御出来る現在の方法。
VL2とVL3が画期的だったのはキューのポジションやその他カラー、GOBOは「機材側が記憶する制御方式」だったこと。また器材側の状況も卓に伝える「双方向通信」でした。
卓の再生プレイバックでは、キュー番号を指示すると、各ムービングライトはそのキューにあった自分が覚えているポジションに向かって色、GOBOを変えて動くといった具合。
これからはスポットがインテリジェントになって行くのか?そんな気がした瞬間でしたが、実際にはそうはなりませんでした......
おまけの考察
ムービングライト黎明期には機材自体が記憶する制御方式で卓との双方向通信だったものが、なぜ一般的にならなかったか......?
DMX512という存在が大きく関わっていたと考えています。
まず、DMX512を使用して多くのメーカーが自社の特色を出した製品が出てきた事。
そして、DMXにより専用プロトコルでしか動かないクローズなシステムから、ユーザーはそれらを自分達で操作出来るようになった事。
これにより、DMX512を使用する機材とそのユーザーが増加しました。
そして、そのDMX512が一方通行の規格だった事。
DMX512が双方向だったらまた違った世界になったかもしれません。もしも双方向がメジャーになっていたら、RDMなどで機器のアドレスや機材情報などが分かりそれらの設定変更など出来る規格が現れたのかも......。
また、コンピューターの処理能力が上がってきた事も大きく関わっているかと思います。制御卓がエフェクトエンジンなる物を備えて使いやすくなっていった事なども一つの要因ではないかと推測しています。
これらは私個人の見解なので何とも言えませんが。
by: CC BY-SA 4.0, Link
VL2が初めてお目見えしたジェネシスの武道館でコンサートを手伝いに行かせてもらいましたが要領が全く分からず右往左往するばかり......そんな記憶が有ります。
その頃ヘッドが動くヨーク(光を出す灯具を支える両腕)型はほぼほぼ販売されることなく専門の会社が仕込み、プログラム、本番を行っていました。
市販されるムービングライトはClayPakyの代表作でもあるゴールデンスキャンやMartin社のRoboscanの様なミラータイプが多くを占めていました。
by: Audio Funzineより
ミラータイプはミラー可動域が限定されてしまい、仕込み位置、ミラーヘッドの向きなどを検討する必要が有ります。
横長で仕込むか、縦長で仕込むか、ミラーヘッドは上か下か......
縦で吊ると前後のバトンが使用出来なくなる可能性があったり、横長で仕込むと他の器材が仕込めなくなるのでムービングは別バトンにしたり、結構大変でした。
その為、今では360°方向に向けられるヨークタイプのムービングヘッドが一般的になっています。逆にミラータイプを探す方が大変になっている感じですかね。
実際に現在の様にムービングライトが一般的に広まった裏にはDMX512が照明制御の標準規格が出来たことが挙げられると思います。
DMXは1990年に発表されました。その時のDMXが一般にまで広まるのには5年~10年程かかっていると思います。
しかしながら欧米のメーカーはDMXが制定される前からムービングの製作に取り掛かっていました。
それまでムービングライトは専用プロトコルでしか動かないクローズなシステムでした。当然一般ユーザーは使えません。高額な金額を出してレンタルするしかなかったのです。
そしてDMXで動作するムービングライト機材が、DMXの発表と共に発表されていきました。
問題だったのは、今で言う相性問題でした。
当然ながらコントローラーもDMXに対応していなければなりません。
当時DMX規格はかなり大雑把な規格だったので、コントローラーはDMXを送出しているのに動かない、動作はするが動きがブレている。ピクつくなどトラブルも発生していました。
ユーザーは1台のコントローラーで何種類かのムービングライトやカラーチェンジャーを使おうとします。同じDMXを使うのですから当然の考えです。ただコントローラーから送出するDMXと、受ける側の複数の種類の器材には相性問題があったのです。
このムービングはOK、このカラーチェンジャーはNG、ということが起きたわけです。
そうなると複数の機材を上手く動作させるには
- 一緒に使わない
- 複数のコントローラーを使う
- コントローラーと器材の間にDMXのパケットを調整するインターフェイスを入れる
そしてLED機材へ
その後ヨーク型が多く使われるようになってきたのはMartin社のMac500辺りからではないでしょうか。
Mac500はProfile系のムービングに
by: Martin Mac 500
Mac600はWashLight系のムービングになります。
by: Martin Mac 600
Martin社はその後アニメーションホイールなども開発しました。
DMXの規格も改訂されDMX512-Aとなり、その後2010年頃にMac 101WashというLEDムービングライトが発表されました。
この機材では、RGBの素子がそのまま使われていました。多分現在のムービングWashの原型になったのではないでしょうか?
そして、翌年?辺りでしょうかRobe LightingからRobin 600という3 in 1タイプの素子が使われた機材も出てきました。
by: Robin 600
Robe社はそれまでそれほど目立った存在では有りませんでしたが、この辺りの時期からどんどん機材の種類が増えてきました。
ムービングライトは素子の開発も進みどんどん性能が上がってきました。Wash系から始まったLED化でしたが、Profile系ムービングライトにもRGBのLEDを使用した機材が出てきました。
Robe社やGLP社など数社がLED機材を次々に発表していた時期です。
更にLEDの開発は進み、白色LEDはより光量を増すことにより従来の放電管タイプの様にCMYカラーを搭載出来るようになってきました。
今やWash系ムービングライトはRGBのプロファイル系の大半は白色LEDになってきています。
ホワイトLEDのパワーアップもどんどん進み今や1200W、1400Wなんて当たり前になってきました。LEDは省エネなんて言う話は何処に行ったのだろうって感じです。
こうして、各社ムービングに様々なエフェクト機能を盛り込んでいき、今日みられるオールインワンタイプになるようなムービングを作り上げていったのです。